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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2011年10月30日日曜日

ジョブスの伝記を読んでみて

さて、発売になったスティーブ・ジョブスの伝記、早速買って読んでみました。私が購入したのは英語版で、Kindle で予約して買いました。せっかくなので興奮が冷めないうちに感想文を書いてみたいと思います。

640ページもあり、かなり読みでがありますが、面白くてついつい読んでしまう内容です。英語も平易ですので、英語の勉強に読んでみるのもいいんじゃないかと思います。チャレンジしてみたい方は是非お勧めします。

まず読んでみて第一の感想は、「実にフェアな視点で書かれている」本だな、ってことです。スティーブの悪い話、悪い所も山ほど書かれていますし、また彼の優れたところ、秀でたところも山ほど書かれています。世の中ジョブス礼讚の本ばかりですから、このフェアな視点が新鮮な一冊でした。

スティーブって傍若無人だとは知っていましたが、これほど傍若無人だったとは思いませんでした。はっきり言ってモノ凄くイヤなヤツです。まあ4歳ぐらいの自分勝手でわがままな子がそのまま大人になって一生を過ごしたと思えばあんまり間違っていないと思います。

前半はスティーブが養子に出されるところから始まり、そしてアップルを追い出されるところまでです。

ガールフレンドを妊娠させ、子供が生まれてしまうのに、DNA 鑑定の結果を突きつけられるまで子供を認知しようとしないスティーブ。会社設立に貢献した友達にストックオプションをあげないスティーブ。はっきり言って会社を追い出されるのは自業自得だったように思いましたし、私は彼が追い出される下りを読んでスッキリしたぐらいです。

後半でPixarとNeXT、そしてアップルへの復帰と亡くなるほんの直前までの話が書かれています。

Pixar が成功するまでの話やNeXTが四苦八苦の末に結局鳴かず飛ばずで終ってしまうあたりは哀れみを感じますが、とにかくジョブスっていうのは粘り強い人です。

そしてアップルへのカムバック、pixar の大成功、そしてアップルでの大成功と物語は続いていきますが、やがて病魔に冒され長い闘病の末世を去っていきます。

実に学ぶことの多い1冊でした。

この本を読んで、私が感じたスティーブから学ぶべき点をいくつか拾ってみました。

- 粘り強さ
スティーブほど粘り強い人は世の中にあまりいないでしょう。アップルを追い出されてもNeXT とPixerを創り、Pixarで売れなくても身銭を切って会社を存続させ、ついにヒット映画を打ち出します。NeXT は事業としては成功しませんでしたが、結局そこで創ったアーキテクチャが今でもMacOS X やiOSのコアとして生きています。

- 美的センス
スティーブはアートにこだわった人でした。伝記の中でもこれでもかというほど例が出てきます。音楽、絵画、建築、製品開発、あるいは日本の石庭などジャンルを問わずに「アート」をとことん追求した人だったようです。アップルの製品もPixer の映画も見るものの心を掴んで離さない何かがありますが、こういうセンスの人がトップにいたからでしょう。実際、アップルですべての製品を決めていくのはジョニー・アイブ率いるインダストリアル・デザインのチームなんです。彼らが決めたデザインは我々開発陣が何言ってもまずひっくり返ることはありませんでした。多分世の中にこれほどデザインを重視した会社は他に存在しないんじゃないでしょうか?

- 細部へのこだわり
スティーブの徹底した細部へのこだわりは病的なまでのほどです。これが仇になった例もありますが、この細部へのこだわりのお陰でアップルを大成功に導いたと言えそうです。一体どれだけの会社でCEOみずからが試作品を手に取って使ってダメ出しをするでしょう?日産のゴーンさんが必ず試作車に乗ると聞いたとこがありますが、それ以外はあまり耳にしたことがないように思います。

- 1度に1つのことに集中する
スティーブって結果的には多くのことを成し遂げましたが、その都度その都度は1つの事にしか集中していなかったように思います。他社と比べるとアップルの製品の数の少なさは驚くほどです。そして初代マッキントッシュ、初代iMac、Appleストア、iPod, IPhone、iPad などの節目節目の製品開発では、スティーブ自らが先頭を切ってエネルギーを注ぎ込んでいます。同時に2つの新規製品は開発しませんでした。多くの事業に手を出したり、いたずらに製品のラインアップを増やしてしまう多くの会社とは実に対照的です。

- 人に嫌われることを厭わない
スティーブはあまりにもズバリと本音を言うので、多くの人を傷付けています。時には極めて悪意を持ってこれをやっていたようです。伝記を読んでいるとその描写が余りにも多いのでゲンナリするほどです。それでも、いままで仕えてきた上司を考えてみても、部下の顔色をうかがうようなトップでは結局優れた人材を集めることも育てることも、ましてやいい製品を生み出すこともできないと思います。ダメなものには「ダメ」という、こういう力が日本の企業の経営者には不足しているんじゃないでしょうか?


- 現実歪曲空間
スティーブの話術はあまりにも巧みなため、「現実歪曲空間」などと呼ばれていました。伝記によると、この現実歪曲空間に騙されてしまっていたのは周囲の人だけではなく、実は彼自身も自分の言葉に騙されてしまっていたようです。自分が酔うような言葉ってなかなか吐けないと思いますが、しかし人の上に立とうとするなら程度の差こそはあれ、必要な能力なのかも知れません。私は以前、師を仰ぐ方から「部下に話をする時は、昨日はじめて理解出来たことでも百年前から知っていたような顔をして喋れ」と言われたことがありました。自分がアップルで管理職をしていた間、もっとも役に立ったアドバイスはこの一言だったような気がします。

他にも色々とあるとは思うんですが、この6つが極めて強く印象に残りました。

非常におすすめの一冊です。日本語版、英語版問わず是非購入して読んでみてください。






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2 件のコメント:

Nob Y. さんのコメント...

最近、Jobsさんの死去以降、まつひろさんのブログ記事を楽しませてもらってます。

"4歳ぐらいの自分勝手でわがままな子がそのまま大人になって一生を過ごしたと思えばあんまり間違っていないと思います。"

この辺が彼自身が有名なスピーチの最後に言っていた、"stay stupid"の意味するところなんでしょうか。だとしたら、なかなか多くの人ができる事ではないですよね。

この伝記本、まつひろさんの詳しい書評で、僕も買って読んでみようと思います。

まつひろ / Matsuhiro さんのコメント...

Nob Y. さん、
ご拝読ありがとうございます。

是非ご自分で読んでみてください。実に得るところの多い本でした。読んで良かったです。