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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2011年10月31日月曜日

アマゾンという名の黒船来襲

アマゾンがアメリカでKindleを売り始めて5年。ついにアマゾン、日本でも本格的に電子書籍を売ることにしたようで、もの凄い高圧的な条件を日本の出版社に突きつけているようです。

「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る

まあ確かに酷い条件だとは思うんですが、こうなるのを手をこまねいて待っていたのは他の誰でもない、日本の出版業界です。こういっちゃ悪いけど、

自業自得でしょう。

私がアップルに勤めていた頃、Sonyが出したブックリーダーを会社で買ったことがあります。たしか2004年ですね。アマゾンがKindle を始めるよりも1〜2年前です。その時点ですでに日本で電子出版を始めようと思えば始められるテクノロジーがすでにあったんです。

つまりこんなことが起きるまで、

7年間も時間があったんです。

しかし何もしてきませんでした。

2年ほど前にこのブログで「次は電子出版の時代」という記事を書いたんですが、その頃はまだiPadも発売されておらず、またSony のブックリーダーもアメリカでそこそこ売れていたので、今後はAmazon vs. SONY かな〜、なんて思っていたのです。日本のメーカーに期待していました。

が、結局Sonyはそのまま戦略の変更もなく、その後Nook、Nook Color などが出てきてまるでやられっぱなしです。

その後日本の出版業界がやってきたことと言えば、自炊本の取り締まりなど、おおよそ脳みそが腐っているとしか思えないような行動です。

そして今回の黒船来襲。

同じ日本人としては実に哀しいし悔しくもありますが、もう日本の出版社は完全に足下を見られています。

「どうせ自分たちでは何もできない、クズども」、って。

日本はどうも外圧がないとないも変れないようですから、今回の件も致し方ないと思います。それがイヤなら楽天ブックスあたりと真剣にビジネスを構築するしかないんじゃないでしょうか?

今回の件、日本にとってはむしろ良い薬なのかも知れません。

私個人としては、アマゾンでも楽天でもどこでもいいから日本語の電子書籍の販売を始めてくれればすぐさま顧客になります。

出版業界の皆様、もう徳川幕府じゃないんだから、既得権層を守ることばかり考えるのは止めて、 とっとと行動を起こしてください。


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ウォールフラワー

アメリカでは、存在感のない子を指して"Wall Flower"「壁の花」という言いかたをよくします。

そういう子ってクラスの横っちょでひっそりとしていて、別に自分の意見を言うわけでもなく、まさしく「壁の花」って感じなわけです。

今アメリカの中高生の間で非常に流行っている一冊の本があり、その本のタイトルが”The Perks of being a Wallflower”というものです。「壁の花でいる役得」、あるいは「壁の花が貰えるおこぼれ」とでも訳せばいいのでしょう。一人のあまり目立たない内向的な少年のお話です。この本、現代版の「ライ麦畑でつかまえて」である、などとも言われており、映画化の話もあるようです。

この本をamazon.com で見てみると、なんとレビューが1390(!)も付いています。相当売れている本でも普通は100かそこいらしかレビューが付きませんから、この本がいかに評判なのかなんとなく分かって頂けるのではないかと思います。

お話は、1991年に高校に入学したばかりのナイーブな男の子チャリーが、クラスメートに「いいヤツだと聞いた友達」にあてた手紙、という不思議な形式を取ります。チャーリーには2人の兄弟がおり、兄はペンシルバニア大学のフットボール部で注目の的、姉はチャーリーと同じ高校の3年生という設定です。物語は、冒頭でチャーリーの唯一の友達が自殺してしまうところから始まります。また物語にはチャリーがもう一人心を許していた「ヘレンおばさん」の話が度々登場します。が、彼女もまた亡き人なのです。ひとりぼっちで迎えた不安いっぱいの高校生活にチャリーは否が応でも向き合わざるを得ない、といった感じで物語はスタートします。

一言で言えば、ある男の子の成長の物語です。冒頭からグイグイ引き込まれてしまいました。セックスやドラッグの話もかなり出てきます。それらは私がアメリカで体験した高校生活や、いま私現在の私の息子たちが体験しているアメリカの高校生活と比べてもリアリティに溢れる話です。「あー、若い頃ってこういうことが世界のすべてだったなあ〜」と何度も思わせてくれる本でした。ハッとさせられる一言もところどころにちりばめられており、本当によく書かれた小説です。

ただチャーリーがナィーブで内向的な性格なはずなのに、意外に大胆な事をしたりと、ちょっと不自然に感じるところもなかったわけではありません。が、目を瞑ってもよいレベルでしょう。

映画化はよほど配役と脚本に気をつけないと、元の物語が台無しになると思います。

この本、英語版も日本語版をamazon.co.jp で購入できます。英語は非常に平易なので、英語で読んでみるのにかなり適していると思います。私は英語で読んだので、日本語版の訳がどの程度優れているのかは何とも言えませんが、アマゾンの書評を見る限りでは割とよいようです。

おすすめです。是非読んでみてください。

日本語版:


英語版:


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2011年10月30日日曜日

ジョブスの伝記を読んでみて

さて、発売になったスティーブ・ジョブスの伝記、早速買って読んでみました。私が購入したのは英語版で、Kindle で予約して買いました。せっかくなので興奮が冷めないうちに感想文を書いてみたいと思います。

640ページもあり、かなり読みでがありますが、面白くてついつい読んでしまう内容です。英語も平易ですので、英語の勉強に読んでみるのもいいんじゃないかと思います。チャレンジしてみたい方は是非お勧めします。

まず読んでみて第一の感想は、「実にフェアな視点で書かれている」本だな、ってことです。スティーブの悪い話、悪い所も山ほど書かれていますし、また彼の優れたところ、秀でたところも山ほど書かれています。世の中ジョブス礼讚の本ばかりですから、このフェアな視点が新鮮な一冊でした。

スティーブって傍若無人だとは知っていましたが、これほど傍若無人だったとは思いませんでした。はっきり言ってモノ凄くイヤなヤツです。まあ4歳ぐらいの自分勝手でわがままな子がそのまま大人になって一生を過ごしたと思えばあんまり間違っていないと思います。

前半はスティーブが養子に出されるところから始まり、そしてアップルを追い出されるところまでです。

ガールフレンドを妊娠させ、子供が生まれてしまうのに、DNA 鑑定の結果を突きつけられるまで子供を認知しようとしないスティーブ。会社設立に貢献した友達にストックオプションをあげないスティーブ。はっきり言って会社を追い出されるのは自業自得だったように思いましたし、私は彼が追い出される下りを読んでスッキリしたぐらいです。

後半でPixarとNeXT、そしてアップルへの復帰と亡くなるほんの直前までの話が書かれています。

Pixar が成功するまでの話やNeXTが四苦八苦の末に結局鳴かず飛ばずで終ってしまうあたりは哀れみを感じますが、とにかくジョブスっていうのは粘り強い人です。

そしてアップルへのカムバック、pixar の大成功、そしてアップルでの大成功と物語は続いていきますが、やがて病魔に冒され長い闘病の末世を去っていきます。

実に学ぶことの多い1冊でした。

この本を読んで、私が感じたスティーブから学ぶべき点をいくつか拾ってみました。

- 粘り強さ
スティーブほど粘り強い人は世の中にあまりいないでしょう。アップルを追い出されてもNeXT とPixerを創り、Pixarで売れなくても身銭を切って会社を存続させ、ついにヒット映画を打ち出します。NeXT は事業としては成功しませんでしたが、結局そこで創ったアーキテクチャが今でもMacOS X やiOSのコアとして生きています。

- 美的センス
スティーブはアートにこだわった人でした。伝記の中でもこれでもかというほど例が出てきます。音楽、絵画、建築、製品開発、あるいは日本の石庭などジャンルを問わずに「アート」をとことん追求した人だったようです。アップルの製品もPixer の映画も見るものの心を掴んで離さない何かがありますが、こういうセンスの人がトップにいたからでしょう。実際、アップルですべての製品を決めていくのはジョニー・アイブ率いるインダストリアル・デザインのチームなんです。彼らが決めたデザインは我々開発陣が何言ってもまずひっくり返ることはありませんでした。多分世の中にこれほどデザインを重視した会社は他に存在しないんじゃないでしょうか?

- 細部へのこだわり
スティーブの徹底した細部へのこだわりは病的なまでのほどです。これが仇になった例もありますが、この細部へのこだわりのお陰でアップルを大成功に導いたと言えそうです。一体どれだけの会社でCEOみずからが試作品を手に取って使ってダメ出しをするでしょう?日産のゴーンさんが必ず試作車に乗ると聞いたとこがありますが、それ以外はあまり耳にしたことがないように思います。

- 1度に1つのことに集中する
スティーブって結果的には多くのことを成し遂げましたが、その都度その都度は1つの事にしか集中していなかったように思います。他社と比べるとアップルの製品の数の少なさは驚くほどです。そして初代マッキントッシュ、初代iMac、Appleストア、iPod, IPhone、iPad などの節目節目の製品開発では、スティーブ自らが先頭を切ってエネルギーを注ぎ込んでいます。同時に2つの新規製品は開発しませんでした。多くの事業に手を出したり、いたずらに製品のラインアップを増やしてしまう多くの会社とは実に対照的です。

- 人に嫌われることを厭わない
スティーブはあまりにもズバリと本音を言うので、多くの人を傷付けています。時には極めて悪意を持ってこれをやっていたようです。伝記を読んでいるとその描写が余りにも多いのでゲンナリするほどです。それでも、いままで仕えてきた上司を考えてみても、部下の顔色をうかがうようなトップでは結局優れた人材を集めることも育てることも、ましてやいい製品を生み出すこともできないと思います。ダメなものには「ダメ」という、こういう力が日本の企業の経営者には不足しているんじゃないでしょうか?


- 現実歪曲空間
スティーブの話術はあまりにも巧みなため、「現実歪曲空間」などと呼ばれていました。伝記によると、この現実歪曲空間に騙されてしまっていたのは周囲の人だけではなく、実は彼自身も自分の言葉に騙されてしまっていたようです。自分が酔うような言葉ってなかなか吐けないと思いますが、しかし人の上に立とうとするなら程度の差こそはあれ、必要な能力なのかも知れません。私は以前、師を仰ぐ方から「部下に話をする時は、昨日はじめて理解出来たことでも百年前から知っていたような顔をして喋れ」と言われたことがありました。自分がアップルで管理職をしていた間、もっとも役に立ったアドバイスはこの一言だったような気がします。

他にも色々とあるとは思うんですが、この6つが極めて強く印象に残りました。

非常におすすめの一冊です。日本語版、英語版問わず是非購入して読んでみてください。






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2011年10月26日水曜日

iPodの誕生10周年に発表された新製品

今日から2日前の10月25日はiPodの誕生10周年でした。

なんともう10年。そしてその間のアップルの躍進ぶりは本当に目を見張るばかりです。

このiPodの生みの親であるトニー・ファデル氏、しばらく前にアップルを退職し、4月に話した時には環境問題に取り組むんだと言っていました。

iPodとiPhone で2度も世界を変えたこの男は一体何を始めるんだろうかと思っていたのですが、なんと彼はNest Labsという会社を立ち上げ、そして第1号となる製品が、iPodの誕生10周年に当たる今月25日に発表されました。

現在アメリカのごく普通の家には、プログラム可能なサーモスタット(室温調節器)が付いています。

こんなの:



しかしこれ、プログラムするの結構大変です。マニュアルを見ながらやってもピンと来ません。多分これをキチンとプログラムして活用している人はほとんどいないでしょう。私もプログラムしていません。ただ手動でオン/オフしています。

ところがですね、あなたがサーモスタットをプログラムする代わりに、サーモスタット自体が適切な温度やあなたの行動パターンを学習してくれたらどうでしょう?このNest Labs という会社、そんなサーモスタットを開発しました。

一週間ほど使うと、スケジュールを組み立て、あとは自動的に温度調節をしてくれるそうです。

こんなの。
Nest Learning Thermostat



無駄にかっちょええ!

この Nest Learning Thermostatは、だいたい初代iPodのジョグダイヤルぐらいの大きさです。で、このサーモスタットもそれ自体がダイヤルになっており、これを廻して温度を調節したり設定したりします。説明してもピンと来ないと思うのでビデオをどうぞ。





またWIFI機能を備えており、ネット経由でパソコン、iPhone、iPadからもコントロール可能だそうです。年内にはAndroid もポートするとのこと。

価格は249ドルで、宣伝を真に受けるなら7、8ヶ月で元がとれるそうです。

う〜む。惹かれる...

そうそう、詳しくはNest LabのWebサイトへ。こちらからどうぞ。

それからトニー・ファデルってこんな人です。



最後に会ったときよりも、髪の毛が大幅に後退していますな... 

ジョブスといい、トニーといい、

どんなにお金があっても髪の毛の後退には逆らえないんですな。


頑張れトニー!

私、このサーモスタット、買っちゃうかもです。


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2011年10月13日木曜日

Apple の今後を占ってみる

この週末、久しぶりにアップル時代の友達と喋る機会がありました。彼らは全員現役のアップル社員ですので、話は当然スティーブ・ジョブスの死と、彼の亡き後のアップルはどうなっていくのか?ということになりました。

話はすぐに「Tim Cook が上手く社内を治められれば、しばらくは安泰だよね」と「クラウドサービスの出来にかなり左右されるのではないか」といったあたりに落ち着きました。それはまったくその通りなんですが、ちょっと腑に落ちなくて考え続けていました。ところが今日何となく腑に落ちてきたので書いてみることにしました。

スティーブ・ジョブスは希代のカリスマ経営者である以上に「歴史に稀に見るマーケティングの天才」だったと思うんです。どのくらいの天才かというと、例えば黒人の公民権運動を大前進させたマーティン・ルーサー・キング牧師やアポロ計画をぶち上げたジョン・F・ケネディ、あるいはインド独立の父と称せられるマハトマ・ガンジーなどと並ぶ、世の中を変えていく言葉を持った天才です。

アップルの製品というのは極めて洗練されていますが、冷静に考えれば類似商品なんていくらでもある上に、アップルによって新規に発明された、というわけでもありません。iPadの前にタブレットPCは存在しましたし、iPhone の前にもスマートフォンは存在しました。MP3プレーヤに至っては、iPod以前にも本当にゴロゴロしていました。しかもアップル製品は価格はそれなりする上に、購入後はiTunesやアプリケーションストアなどのエコシステムに縛られてしまうのです。しかし何故かスティーブの手にかかると、すべてのマイナス点が帳消しにされ、そしてあたかもアップルがそれらの製品を新規に発明し世の中に送り出したかのような錯覚に落ち入ってしまいます。

スティーブのスゴいところは大衆を酔わせてしまうばかりではなく、音楽業界の重鎮たちをもその話術で飲み込み、音楽のネット有料配信を確立してしまったことです。この交渉、スティーブ以外の人が果たしてまとめられたんだろうか?と考えると暗澹としてしまいます。ですので今後のアップルを考える上で、このような交渉力もかなり削がれたアップルを想像してみる必要があります。


その他の要素も考えてみましょう。

Tim Cook はアップルの社内抗争をコントロール出来るんでしょうか?



私は出来ると思います。

この人、実は社内でかなり恐れられている人です。スティーブの独裁政治を陰ながら支えてきたのは間違いなくこのTim Cook です。

とにかく頭がよく、そして途方もないワークホーリックです。この人からのメール、タイムスタンプが平気で朝の4時半とかそういう感じです。この人、自分の部下が月曜日からフルパワーで働けるように、日曜日にスタッフミーティングをすると聞いた事があります。さらにフィットネス・フリークで、会社のジムに朝の5時台にやってきてワークアウトしています。

この人、決して声を荒げたりする人ではありません。あるいは「同じ空気吸いたくない」なんて口が裂けても言わないタイプです。ところが会議などで部下がいい加減な返事をすると、冷静なトーンのまま大の大人が泣くまで執拗に質問攻めにするようなタイプの人です。

またゲイらしいです。本人は公にしていませんが。おそらく99.9%ぐらいの確率でゲイなんでしょう。ゲイの噂が絶えたことがありません。アップルはゲイなんてゴロゴロいますからこれについてとやかく言う人は誰もいません。私もゲイの上長に長らく仕えていました。ゲイの方というのはキレイ好きでお洒落のセンスもよく、そして非常に細かい方が多いので、多分Timもそういう性質なんじゃないかと思います。おそらくこういった部分はアップルの洗練されたデザインを維持していく上で強力なプラスとして作用するでしょう。

次に鍵を握るのがアップルのクラウドサービスです。
アップルのクラウドサービスはずっとGoogle, Amazon あるいは Facebook などの会社の後塵を拝してきました。アンドロイドの端末の販売台数はアメリカ国内に関して言えばアップルを抜きつつあり、またAmazonもつい先日Kindle Fireをはじめとする低価格の端末を発表しています。つまり、そもそも優れたクラウドサービスを持つところが、低価格の端末を手にし始め、確実にシェアを伸ばしているんです。

アップルは優れた端末を持っているのに、これまでパッとしないクラウドサービスしか提供出来ていません。icloudが上手く行けば、鬼に金棒ですが、もしも躓くとかなりの痛手になると思います。これはアップルの3〜5年程度の近未来を占う上で重要な試金石となるような気がします。

今後もアップルは、スティーブ・ジョブスなしで、世の中から「目の付けどころはいいのに成功していない製品」を発掘し、その製品を再定義し直して爆発的に売る、と言ったようなマジックを続けていくとが出来るんでしょうか?

私は正直言って無理だと思います。3年ほどは今のペースを維持した上で、段々と失速し始めるんじゃないかと思います。それでも向こう10年やそこいらは人々を魅了し続ける会社であるでしょう。そして生のスティーブ・ジョブスを知るTim Cook をはじめとする現在の経営陣が引退し始める頃、アップルの本格的な失速が始まるのではないかと思います。

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2011年10月10日月曜日

Steve Jobs は本当に「ビジョナリー」だったのか?

調子に乗ってあと1、2回、Steve Jobs やアップルについて書いてみたいと思います。

Steveの訃報を受けて出される様々なコメントや声明、記事などをみていると、「独創的」、「ビジョナリー」などといった形容詞が着いて廻ります。おそらくそれが一般的に定着した彼の評価なんでしょう。

しかし「ビジョナリー」って言葉も「独創的」って言葉も、Steve に対する形容詞としてどうも違和感を憶えてしまうんです。

もしSteveに巷で言われているような独創性やビジョンがあったとしたなら、それは発明や製品の開発などではなく、他の誰にも真似出来ないマーケティングではなかったのか、と思います。なにしろアップルが純粋に発明した技術など幾つもないんですから。GUIも、MP3プレーヤもスマートフォンも、タブレットPCもすべて先駆者がすでにいました。なのにSteve のプレゼンを聴かされると、あたかもそれらがアップルによって初めて生を受けたかのような錯覚に陥ってしまうのです。これこそがSteve の真骨頂だったでしょう。

私が接する機会があったSteve という人は、チャンスを感じたらすぐさま出来ることから手を付け、手段を選ばず、そして途方もなく粘り強く、最後まで絶対に諦めないでやり通す、といった感じの人でした。今までのやり方がダメだと思うと周囲が唖然とするほど平気でそれをかなぐり捨てました。「ビジョナリー」や「独創的」な人というより、手段を選ばないエキセントリックな人、といった趣でした。

彼は復帰直後、有名なThink Different というキャンペーンをやりましたが、今考えてみると、あれは誰のためでもなく、自分を奮い立たせるために創ったんじゃないかと思います。




まだ2代目か3代目のiPod をやっていた頃、社内でこんな話を聞いた事があります。

まだアップルがiPod を売る前のこと。当時すでにハードドライブベースのMP3 プレーヤを作って伸び始めていた CREATIVE Labs という会社の社長がSteve Jobs に会いにきたことがあるそうです。

ところが製品を見たSteve、「きみの会社にはデザイナーはいないのかい?」と冷や水を浴びせ、追い返してしまったそうです。

この話の真偽はさておき、アップルは突如 iPod の開発を始めました。Fuseという小さい会社を興してハードドライブベースのMP3プレーヤを作っていたTony Fadell 氏がアップルにアプローチし、ディレクタとして採用され、30人程度の「Special Project Group」という小さなチームが形成されました。

おそらく最初にCREATIVE Labsの社長に会った時にSteveの頭の中にスイッチが入ったんでしょう。それともすでにFadell 氏にアプローチされ、すでにスイッチが入っていたのか... いずれにせよSteve は思ったことでしょう。今が市場に参入するべき時期で、アップルならどの会社よりもずっとうまくやれると。Fadall氏は見事 Steve の期待に応え、iPod を世界的なヒットに導きました。

iPod/iphone のエコシステムを賞賛する人も沢山いますが、ここに至るまでも、先にビジョンがあったとはどうも考えにくいのです。そうじゃなくて、色々と作っていくうちに当然の帰結としてそこに辿り着いたんでしょう。
iPodはやがて Firewire を捨ててUSBをサポートし、ウィンドウズのサポートを開始し、カラー化を果たし、動画の再生やPodcastをサポートし始め、やがて iTunes ストアが出来上がりました。これらひとつひとつが本当に一歩ずつなんです。まずはiPodが売れて、じゃあ次はウィンドウズの客に売れないかな?って感じでした。現実的なステップを一歩ずつ確実にモノにしていく。それがアップルのやり方ですし、Steve 自身のアプローチだと思います。

またしつこく他社を研究するのもアップルです。私はiPodに関わっていた頃、東京のオフィスに頼んで、iModeをはじめとする日本や韓国で流行っている面白い製品を片っ端から送ってもらいました。そして、その頃にはもう上級副社長に昇進していたFadell氏みずからが、それらの製品を実際に手に取って使ってみて、バラして、みんなであーでもないこーでもないと何度となくディスカッションしていました。

私はその後iPodとは無関係の部署になってしまったので縁がなくなってしまいが、遂にiPhoneが出てきたのはそれから本当に何年も後のことでした。出てきた製品は当然のことながら最初から非常に高い完成度でしたが、あれだけ煮込めば当然でしょう。あの発表会を見た時はアップルで働いてきて本当に良かったと、心が震えるような感じがしました。

日本のメーカーがアップルになれない理由はいくつもあるとは思うんですが、実は腰が引けているサラリーマン社長が経営している、というあたりが一番の原因な気がします。何をやるのも最初から腰が引けており、小さな市場の囲い込みをすぐに始めてしまいます。お財布ケータイもiMode も世界を席巻出来る技術なのに、なぜ日本の市場だけにこだわり小さなパイを奪い合いに終始するのでしょうか?それはおそらく、日本が一番慣れ親しんだ環境で、外に出ていくのが怖いからでしょう。

日本にもソニーの井深大、盛田昭夫両氏などのように世界中での音楽の聴き方を変えてしまった経営者もいました。また本田宗一郎氏のようにバイクから始めて世界屈指の自動車メーカーを育てた方もいました。彼らもまた、「ビジョナリー」や「独創的」というよりは、不屈の闘志を持った「Crazy Ones」ではなかったのかと思います。

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2011年10月8日土曜日

Steve Jobs が創った企業文化

Steve Jobs が亡くなってまだわずか2日。

アメリカではすぐに特集番組が組まれ、Facebook もTwitter もSteve Jobs 一色です。

私も一昨日、アップル時代の思い出も綴って載せたら、なんか信じられないようなアクセス数です。

大勢の方から続きを書いてくれ、とのメッセージを頂いたので、ちょっと書いてみることにしました。

今回はSteve Jobsとの接点よりも、彼が遺した Apple という組織について書いてみたいと思います。

アップルって良くも悪くもSteve Jobs の強烈な個性が強く反映されている会社です。そしてこのアップルという組織は、世界中から才能を集める吸引装置のような役割を果たしています。アップルで働いていると、「人生の中でこんなに頭のいいヤツには会ったことがないぞ」と思わせてくれる人々に次々と遭遇することができます。また「こんなにアクが強いヤツにも会ったことないな」と思わせてくれるご仁も沢山います。あるいは「お前は個性的って言う以外は別に取り柄がないな」という人も山ほどいます。何かが秀でている代わりに何かが著しく欠けているような方も沢山います。アップル以外ではまったく通用しないであろうほど常識に欠けている方々とか...こうして書いていて思い出す面々はどの人も実に個性的です。

こうした才能あふれる目立ちたがりの個性的な面々が集まれば、当然のことながらそこには凄まじい軋轢が発生します。アップルの社内政治の苛烈さはシリコンバレー屈指と言われ、その苛烈さはポジションが上がれば上がるほど増していくのです。

もしもアップルがダメになることがあるとしたら、多分それは社内政治による内部分裂が原因でしょう。

そう思うぐらい社内政治が苛烈です。アップルはよく突如今まで活躍していた重役が追われてしまったり退職したりしますが、これらはすべてほとんど社内政治が原因です。

アップルで尊敬され、文句なく評価してもらえるのは革新的なアイデアによるイノベーションと、それを口先だけで終らせないなり振り構わない実行力です。一方でおそらく最も致命的なのが注目される場で「使えないヤツ」のレッテルを貼られてしまうことでしょう。

例えばお客様からの苦情メール。これが突如Steve Jobs から転送されてくる、ということが年に数回あります。Steve直々の問題なのでSteveの側近たちもが注目しています。だからこそ、そこで「この問題を作り込んだ愚か者」に仕立てられないよう細心の注意を払いつつ、隙あらばこの問題を他部署の責任に仕立てたり、「問題を早急に解決したヒーロー」になる必要があります。

こんな非常事態でなくても、日頃からいかに自分の部署の成果を差別化してアピールするかを考え、自分の部署の社内マーケティングに心を砕くんです。また大変な作業はなるべく体よく他部署に押し付け、いかに手柄だけを自分のものにするか、ということに汲々とした毎日を過ごすんです。どんなに真面目な良い人でも脇の甘い管理職は刺されまくりで、そのうちに消耗して退職するなりレイオフされてしまいます。

この驚くほどバカバカしい政治活動も見ようによってはプラスの部分もあります。緊急時に格好のターゲットにされないよう、常日頃から文句を付けられないほどの成果をコンスタントに上げよう常に必死になります。またミスした時のコストがあまりにも高いので、一生懸命ミスを未然に防ごうと常日頃努力するようになります。しかしミスがないだけではただの凡庸なマネージャでお終いです。他部署に成果を横取りされないよう特色を出すべく、常にイノベーションに心がけるようになります。学歴なんて屁の突っ張りにもなりません。評価されるのはアップルに入った後の一切合切を含んだ「実績」だけです。

そうそう、そういえば管理職の勤務評定の項目に「部下の育成」という項目は存在しません。使えないヤツは育成などせず早急に切り、賢いヤツと入れ替えるマネージャが評価されます。なにしろアップルで働きたい才能溢れる人材は幾らでもいるんですから。

こうして書いてみるアップルは楽しかった場所というよりは鍛えられた場所ですね。常に疲れていて、それでいて妙に充実していました。

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2011年10月6日木曜日

Steve Jobs の思い出

Steve Jobsが亡くなってしまいました。

なんというか本当にショックです。

私はアップルで16年間働いていました。そのうち半分以上はカリフォルニアの本社で管理職でした。Steve Jobs と話をしたこともあります。そんな体験を振り返ってアップルにおけるSteve Jobs ってどんな感じの存在だったのか私なりに綴ってみたいと思います。

Steveがどんなふうな人なのか、という話をするには、まず彼がアップルに復帰する前の社内の様子を書いてみたいと思います。

その頃のアップル社内というのは、船頭のいない船、とでも言おうか、「学級崩壊」ならぬ「社内崩壊」とでも言うのか... 優秀な人は山ほどいましたが、全員が自分の向きたいほうを向いて好きな事をやっており会社を食い物にしているような感じでした。

また今のような秘密主義の会社ではありませんでした。それどころか社内の意思疎通が極度に悪く、社内で走っている別のプロジェクトを知ろうと思ったらマック専門誌を買って読んだ方が正しい情報がとれるくらいの酷さでした。会社内にペットを持ち込むことも容認されており、中には犬と遊んでんだか仕事してんだか分からない人もいましたし、社内を鳥が飛んでいたりもしました。Beer Bash と称してほぼ毎週社内でバーティがありました。これは本社でなくても日本の現地法人も同じで金曜日はあまり仕事にならず、早くからビールを飲んでいました。さらに5年間働くと1ヶ月のお休みが貰えたので、みんなこれに有給を付け足して2ヶ月ぐらいお休みを取り、その間に就職活動をして去ってしまう人も大勢いました。最後の頃には会社の身売り話が何度も出始め、ついにはリストラが始まり、いつ職を失うのかと毎日がドキドキの連続でした。


そんな折、まさかの Steve Jobs 復帰。

社内の様子は一変しました。最初は熱狂としかいいようのない興奮で迎えられたSteveでしたが、ごく短期間の間にその熱狂は「恐怖」とでもいうような感情によって置き換えられました。

それまでのアップルはよくも悪くも極めて民主的な会社でしたが、一方でどうにも方向性の見えない会社になってしまいました。

しかしSteve のやり方は180度異なっていました。一言で言うなら「独裁主義」です。歯向かうヤツは辺り構わず切られていきました。経営陣はほとんどNeXT から連れてきた連中に入れ替わり、それまでの経営陣はあっと言う間に叩きだされていきました。当時の私の上司だったディレクタもNeXTから来た人に入れ替わりました。その彼は「傍若無人」としか表現のしようがないほど威張り腐っており、それまでのマネージメント・チームは全否定されバサバサを切られていきました。ただその傍若無人な態度を認めざるを得ないほどよく働く人でした。NeXTでスティーブの薫陶を受けた連中というのはもう以前のアップルは基準値が違うという感じで、その日から労働時間が止めどもなく伸びてゆきました。そしてそれから10年以上たった今もアップルはそういうスピードで働いています。

私は丁度そのころに管理職に抜擢されましたが、来日した上長に「いいか、お前は選挙で選ばれたんじゃないんだ。お前はこのグループの独裁者になるんだぞ」と言われたのを良く憶えています。

この頃のSteve の運営方針は一言でいうなら「恐怖政治」でした。
社員食堂などで話しかけられシドロモドロになってしまうと「お前は自分がどんな仕事をしているのかも説明出来ないのか?同じ空気吸いたくないな。」などと言われ首になってしまうと聞きました。たまたまエレベータに乗り合わせて首になった人などの話などもあり、伝説に尾ひれがついて恐怖感が隅々まで行き渡り、みんなSteve と目も合わせないようにするような始末でした。

しかし独裁政治には良いところもたくさんあります。民主主義時代には整理出来なかった利益を生まない部署が整理され、コミュニケーションが密になり、秘密が外部に漏れなくなっていきました。こうした変化がわずか1年ぐらいで確立されましたから、本当に大した経営者です。

数年後には組織がすっかり綺麗に整理整頓された上、さらに自分が社内でどういう役割を果たしているのか極めて明確に定義されるようになりました。なので自分の仕事は会社のためになっているのだろうか?世の中のためになっているのだろうか?などと大企業に勤めているとありがちな悩みを持つようなことはなくなりました。また会社の知名度も人気もうなぎ上りだったので非常に誇らしく感じたものです。これほど働きがいがある会社は少ないでしょう。会社に行くのが楽しい毎日でした。

この頃になるとSteve に対する恐怖感というは「恐怖」というよりも「畏怖」といったような感情に置き換えられした。

そう。Steve って本当に畏れ多い存在だったんです。

その後に続いていく物語は、もう世間が良く知っているお話です。iPod, iTunes,iPhone, iPad と様々な製品が次々と発表され、世界中がSteveの世界の虜になっていきました。

今から、8年か9年ほど前の、まだSteve がガンを患う前のことです。こんなことがありました。
当時私はiPod Mini の開発に関わっていましたが、11月のある日、試作機をいじったSteve が完成度の低さに癇癪を起こし、会議の席上で試作機を壁に投げつけたことがありました。凍り付いて静まり返る会議室... まったくマンガに出てくるような独裁ぶりです。が、相手が Steve じゃ仕方ありません。その後も血眼の開発が続き、クリスマスイブさえ出勤して働きました。100日以上は休みなくぶっ通しで働いた記憶です。そして翌年の2月に出荷。Steveが出荷記念パーティを開き、開発メンバーが招かれました。その席でSteveは:

「アップルは最高の砂場だよ。毎日来るのが本当に楽しい。これからも面白いものを色々と作っていこう!」

と嬉しそうに喋っていました。周りに座っていた僕ら下々は「オレには砂場じゃなくて職場なんだけどな...」と内心思っていましたが、みんなおくびにも出さず同調して頷いていました。

他にも書いていくときりがないんですが、また機会を改めて書いてみたいと思います。

こうして振り返ってみると、自分の仕事人生の多くをアップルで過ごせたことは私が得た最大の財産ですし、これからもずっと私自身に影響を及ぼし続けるんだろうな、と思います。

Steve さん、安らかにお眠りください。お疲れさまでした。恐ろしくも楽しい時間、本当にありがとうございました。