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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2012年9月17日月曜日

ジッポライター

グレッグ(仮名)は派遣社員として、とあるフルーツのロゴの会社で働いていた。

グレッグは驚くほど仕事ができた。

コードもバリバリ書けるし、レポートもしっかりしている。面倒見がよくて人望も厚い。

やっと二十歳過ぎの高卒とは思えなかった。

彼の上司は彼を正社員として雇うことにした。

グレッグは大喜びだった。

ところがグレッグの正社員昇格はあえなく潰えてしまった。

グレッグには少年時代の犯罪歴があったのだ。

18歳未満で犯した犯罪は5年間記録に残ってしまう。

グレッグは正社員になれないばかりか、派遣社員の立場さえをも追われてしまった。

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グレッグは中学生の頃、事故で父親を亡くしてしまった。

お父さん子だった彼はあっという間にグレ始め、タバコ、薬、暴力事件をエスカレートし、やがて警察から逃げようとした挙げ句、車を大破させて御用となった。

それが17歳の時。

腹を立てた母親は身元引受人になることを拒み、グレッグは留置所で1週間を過ごした。

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そんな彼を変えたもの。それは父親の形見のジッポライターだった。

あるときスノーボードに行ったグレッグは、リフトの上で一服しようと、タバコをくわえ、ライターで火をつけようとした。ところが

ポトリ

とライターが彼の手から、遥か下の雪面へ落ちていった。

グレッグはリフトを降りると慌ててライターを落としたところに戻り、ライターを捜し始めた。

2メートル以上もの新雪が積もったばかりのスキー場。

そこでグレッグは日が暮れるまで雪を掘ってライターを捜した。

が、そのジッポライターは遂に見つからなかった。

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「死んだ父親にさえ見捨てられたような気がしたんですよ」

グレッグはその時のことを振り返って言う。

グレッグはその日を境に変わった。真面目に勉強をはじめ、独学でプログラミングを憶え、派遣社員として何社かを転々とした後、冒頭にある通りフルーツのロゴの会社にやってきた。

が、努力は実らず、つまらない若かりし頃の犯罪歴のせいで、正社員への道は途絶えてしまった。

しかし彼はそんなことではめげなかった。

働きながらオンライン大学の授業を受講し、4年かかって卒業証書を手に入れた。

その頃、17歳の時の犯罪歴がようやく記録から抹消された。派遣社員として転々としていた彼は、再びフルーツのロゴの会社へやってきたのだ。

以前自分を正社員にしようとしてくれた上司はもう居なかった。その部署のトップは背の小さい日本人になっていて、職場の雰囲気も以前とはずいぶん変わっていた。果たして2度目のチャンスはあるのだろうか?

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その頃オレは、フルーツロゴの会社で、ちょっとばかり偉くなって40人ほどの部下の面倒を見る立場になった。

最近臨時採用した契約社員のグレッグは、目を見張るほど仕事が速い男だった。にこやかで腰が軽く、努力を惜しまない。そんな彼の真摯な姿勢に共感を憶えたし、その辺の正社員よりもよほど仕事ができた。

そんな折り、一名の退職者が出たので、グレッグを正社員にして穴埋めしようと考えた。

グレッグをオフィスに呼んで本人の意向を確認してみた。すると:

「松井さん、お言葉は嬉しいんですけど、俺、17歳の頃に犯したつまらない犯罪歴があるんで、多分正社員にはなれません。」

「えっ、そんでお前今歳いくつ?」

「25です。」

「じゃあもう消えてるじゃないの?」

「そうなんですけど確認しようもなくて。それに5年じゃなくて8年経たないと消えないと聞いたこともあるし…」

「まあまずは確認しようぜ」

「はい…。」

そんな会話があって、オレは人事部の友人に掛け合って、内密に彼の記録をチェックしてもらった。

すると、犯罪歴は抹消されていたのだ。

その2週間後、彼は正社員として仲間の一人に加わった。

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それから10年以上の月日が経ち、グレッグはフルーツのロゴの会社から検索会社に移り、そして今ではソーシャルネットワークの会社で働いてる。

オレは彼となんとなく馬が合い、時々一緒に酒を飲んだり飯を食ったりする。

留置所に迎えてきてくれなかった母、無くしてしまった父親のライターが彼の背中を押してくれた、と彼は言う。

今、思春期の子供を持ち、苦労している親御さんも多いだろう。

オレもそのうちの一人で、色々と手を焼いている。

グレッグは稀な例なのかもしれない。

でもグレッグは確かにいて、そして今日もくったくなく笑い、激しく仕事をし、仕事の合間にトライアスロンやスノボに明け暮れている。

躓いてきた男のほうが、むしろ魅力があるのかもしれない。

彼を笑顔を見ていると。いつもそんな気がする。



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