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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2011年10月8日土曜日

Steve Jobs が創った企業文化

Steve Jobs が亡くなってまだわずか2日。

アメリカではすぐに特集番組が組まれ、Facebook もTwitter もSteve Jobs 一色です。

私も一昨日、アップル時代の思い出も綴って載せたら、なんか信じられないようなアクセス数です。

大勢の方から続きを書いてくれ、とのメッセージを頂いたので、ちょっと書いてみることにしました。

今回はSteve Jobsとの接点よりも、彼が遺した Apple という組織について書いてみたいと思います。

アップルって良くも悪くもSteve Jobs の強烈な個性が強く反映されている会社です。そしてこのアップルという組織は、世界中から才能を集める吸引装置のような役割を果たしています。アップルで働いていると、「人生の中でこんなに頭のいいヤツには会ったことがないぞ」と思わせてくれる人々に次々と遭遇することができます。また「こんなにアクが強いヤツにも会ったことないな」と思わせてくれるご仁も沢山います。あるいは「お前は個性的って言う以外は別に取り柄がないな」という人も山ほどいます。何かが秀でている代わりに何かが著しく欠けているような方も沢山います。アップル以外ではまったく通用しないであろうほど常識に欠けている方々とか...こうして書いていて思い出す面々はどの人も実に個性的です。

こうした才能あふれる目立ちたがりの個性的な面々が集まれば、当然のことながらそこには凄まじい軋轢が発生します。アップルの社内政治の苛烈さはシリコンバレー屈指と言われ、その苛烈さはポジションが上がれば上がるほど増していくのです。

もしもアップルがダメになることがあるとしたら、多分それは社内政治による内部分裂が原因でしょう。

そう思うぐらい社内政治が苛烈です。アップルはよく突如今まで活躍していた重役が追われてしまったり退職したりしますが、これらはすべてほとんど社内政治が原因です。

アップルで尊敬され、文句なく評価してもらえるのは革新的なアイデアによるイノベーションと、それを口先だけで終らせないなり振り構わない実行力です。一方でおそらく最も致命的なのが注目される場で「使えないヤツ」のレッテルを貼られてしまうことでしょう。

例えばお客様からの苦情メール。これが突如Steve Jobs から転送されてくる、ということが年に数回あります。Steve直々の問題なのでSteveの側近たちもが注目しています。だからこそ、そこで「この問題を作り込んだ愚か者」に仕立てられないよう細心の注意を払いつつ、隙あらばこの問題を他部署の責任に仕立てたり、「問題を早急に解決したヒーロー」になる必要があります。

こんな非常事態でなくても、日頃からいかに自分の部署の成果を差別化してアピールするかを考え、自分の部署の社内マーケティングに心を砕くんです。また大変な作業はなるべく体よく他部署に押し付け、いかに手柄だけを自分のものにするか、ということに汲々とした毎日を過ごすんです。どんなに真面目な良い人でも脇の甘い管理職は刺されまくりで、そのうちに消耗して退職するなりレイオフされてしまいます。

この驚くほどバカバカしい政治活動も見ようによってはプラスの部分もあります。緊急時に格好のターゲットにされないよう、常日頃から文句を付けられないほどの成果をコンスタントに上げよう常に必死になります。またミスした時のコストがあまりにも高いので、一生懸命ミスを未然に防ごうと常日頃努力するようになります。しかしミスがないだけではただの凡庸なマネージャでお終いです。他部署に成果を横取りされないよう特色を出すべく、常にイノベーションに心がけるようになります。学歴なんて屁の突っ張りにもなりません。評価されるのはアップルに入った後の一切合切を含んだ「実績」だけです。

そうそう、そういえば管理職の勤務評定の項目に「部下の育成」という項目は存在しません。使えないヤツは育成などせず早急に切り、賢いヤツと入れ替えるマネージャが評価されます。なにしろアップルで働きたい才能溢れる人材は幾らでもいるんですから。

こうして書いてみるアップルは楽しかった場所というよりは鍛えられた場所ですね。常に疲れていて、それでいて妙に充実していました。

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22 件のコメント:

  1. 昨日はコメント返していただき大変感謝しています。

     「アップルは間違いなくブラック企業だと思いますw。この開発の時もマネージャの一人が開発の途中にバーンアウトして辞めてしまいましたし、自分も辞める寸前でした。」

    異常なほどのこだわりを持っていて良いものを世に出したいと本気で思っているからこそどうしても長時間労働でかつ成果に対して厳しいのでしょうね。

    「動機という意味ではやっぱり世の中を変えていくような手応え、といったようなものでしょうか。また自分が携わった製品が世界中で使われ、良くも悪くも常に話題の中心にあるというのは、やっぱり相当の励みになりました。」
    素敵ですね。そのような体験を出来る会社は世の中にそれほどありませんから非常に貴重な体験だと思います。まつひろさんは幸せだと思います。

    また、ジョブズに関するブログ書いてください。ご返答感謝します。

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  2. 韓国と似ていますね。
    あんなに勉強してエリートとして迎えられても、約8年で、優秀な新人と首をすげ替えられてしまうと聞きます。
    休まずに走り続けるところ、よく似ています。

    いその こう ご存知ですか?
    貴方の入社前かもしれませんが、優秀な若い日本人で、亡くすには惜しい弟のような友人でした。
    彼の変貌の奇跡は貴方の書く内容ととても重なり、暫し感慨にふけりました。

    私はMonterey半島です。
    そう遠くありませんね。
    ではまた。
    Jiran

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  3. Pebble Beach Liaison さん
    >韓国と似ていますね。
    >あんなに勉強してエリートとして迎えられても、約8年で、優秀な新人と首をすげ替えられてしまうと聞きます。

    えっ、そうなんですか?知らなかった。もっと日本企業みたいな感じなのかと思っていました。

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  4. Pebble Beach Liaison さん

    いその こうさんという方は存じ上げません。モントレーじゃ近いですね。お目にかかる機会もあるかも知れません。

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  5. とても楽しく記事を読ませてもらいました。一つ質問なのですが、ジョブズ氏は普段からジーンズにあの黒のタートルネックのファッションだったのでしょうか?

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  6. こう君は自殺したんです。検索したら出るかも。

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  7. burgerさん、

    >ジョブズ氏は普段からジーンズにあの黒のタートルネックのファッションだったのでしょうか?

    大体あの格好でしたね。タータルネックじゃない時もあったように思いますが、いずれにせよ黒いシャツだったような記憶です。

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  8. Pebble Beach Liaison さん

    いその こうさん、ググったら出てきました。Newtonの開発をなさっていたんですね。あの製品も注目の高い製品でしたから、もの凄いプレッシャーだったでしょうね。

    アップルってSteve 復帰前も今ほどではないにせよ社内抗争が耐えない会社でしたからなんとなく分かる気がします。

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  9. こんにちは。
    Appleで働いて二年くらいになりますが、確かに社内政治は強烈ですね。#以前いたMicrsofotも強烈でした。

    今後、どのようにAppleが動いていくのか、とても楽しみです。

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  10. 興味深く読ませていただきました。
    Appleに限らず、アメリカの成長企業で3年以上も正社員でいることは大変なことだと思います。だから16年もいたことがすごいと思います。
    まつひろさんも政治力にたけていたのでは・・・!
    またAppleのお話聞かせてください。

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  11. はじめまして
    1996年からMacを使っております。

    ここで言われいている人って、確か、スカリー時代にNewton開発で拳銃自殺しちゃった日本人の方ですよね。

    私はそれまでアップルが好きだったんですが、その事件を知った以降はブラック企業の印象は否めませんね。

    しかしながらこういう記事は非常に興味があります。
    これからもアップルの裏舞台の様子を書いて頂ければと思います。

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  12. 技術者の場合も政治力が必要なんでしょうか?

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  13. Hak Matsuda さん、
    Welcome to Apple! です。
    もしマネージャになったら自分なりに正気を保つ方法を編み出すことを強くお勧めします。私はもっぱら運動でしたが、何かないと普通の神経の方にはかなり厳しいと思います。

    あと部下を持たずにスペシャリストになることで給与を上げていったほうが多分ずっとストレスが少ないと思います。私もこっちを目指せば良かった。

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  14. Ken さん、
    あんまり政治は長けていなかったですね。ああいう環境でゴリゴリ続けるには何かが根本的に欠けていたような気がします。

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  15. >技術者の場合も政治力が必要なんでしょうか?

    技術者でも管理職を志すなら政治力は絶対に必要です。そうしないと他の役割が近いグループに乗っ取られたりとか、あり得ないような被害を受けます。

    ペイペイに留まったままスペシャリストを目指す、という方向があります。これが一番政治と無縁なうえ、給料もよいです。ただ相当頭よくないと無理かもです。

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  16. 面白かったです。

    成果をどんなにコンスタントにあげていても、会社に批判的とレッテルを貼られたり、ミスを一切起こさなかったとしても、他部署のミスをいつの間にか押し付けられていたりするのが、社内政治だともいます。

    >緊急時に格好のターゲットにされないよう、常日頃から文句を付けられないほどの成果をコンスタントに上げよう常に必死になります。またミスした時のコストがあまりにも高いので、一生懸命ミスを未然に防ごうと常日頃努力するようになります。

    ただ、一点だけ、ここの記述がちょっと不自然に感じました。
    直前の話と一貫性がなく、リアリティを感じません。

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  17. yukizokin さん、


    >ただ、一点だけ、ここの記述がちょっと不自然に感じました。

    そもそも頑張って成果があるようにするのが大前提なんですよ。アップルに限らず、米国の大企業は、スキル、実績、努力は当たり前の前提です。

    その程度が出来なければ、もっとそれ以前に食い物にされて、リストラ案が出た時などに真っ先に候補にされて部署後と無くなっちまうんです。

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  18. こんにちは
    コメント返していただいてありがとうございました。

    少し言葉足らずだったかも知れませんが、私もそう思います。

    Appleのような大企業ではありませんが私が以前いた会社が社内政治がひどく、大きな成果を上げ続けている人が理不尽な理由でクビになるのを体験しました。

    理由とはこんな感じです。

    ・順調に行っていたその人のプロジェクトを突然奪い取って失敗に終わらせたのに、『フォローしなかったから失敗した』

    ・その人が全く知らされていない別プロジェクトなのに、遅延すると、『協力しなかったから遅延した』

    ・3・11の震災の時に避難場所に避難すると、『会社の指示系統から離れて勝手に行動した』

    等々。言葉遣い云々は大臣のマスコミバッシングのように日常茶飯事です。

    それで最近社内政治に興味が起こり、調べている中でこちらのブログを訪れた次第です。

    日本だと、既得権益者が自身の既得権を維持しようとするために社内政治が発生すると考えているのですが、
    アメリカの場合は、成果を足がかりに他者の既得権益を奪うために社内政治を行うという感じでしょうか?

    ・・

    ギル・アメリオさんがCEOだった時、Appleの内側から見てどんな方でしたでしょうか?
    Appleのターニングポイントだと思うで一番興味があります。
    できたらブログ記事にして欲しいです。

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  19. yukizokin さん、

    アメリカは訴訟社会なので、首切りやレイオフをする際にはかなり用意周到にやります。

    日本ではあまりありませんが、例えばJob Description というものがあり、自分の仕事はそれで規定されています。ですので:

    >その人が全く知らされていない別プロジェクトなのに、遅延すると、『協力しなかったから遅延した』

    もしも上記のような理由で解雇すると、会社側が職務上規定されていないことを理由に解雇したということになり、目の玉がすっ飛び出るような巨額で訴えられます。会社側もまず負けてしまうでしょう。また肌の色や宗教、容姿等を不用意に批評しようものなら、これも訴訟に結びつきます。ですので自ずと日本の会社で見られるようあんイジメのような感じとはかなり色合いが異なります。

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  20. こんばんは。

    >アメリカは訴訟社会なので、首切りやレイオフをする際にはかなり用意周到にやります。
    と書かれていましたが、ジョブスさんにクビと言われただけで多くの人が辞めさせられたということは、どのように辞めさせることができたのでしょうか。不思議です。

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  21. >ジョブスさんにクビと言われただけで多くの人が辞めさせられたということは、どのように辞めさせることができたのでしょうか。不思議です。

    正直言ってよくわかりませんが、ジョブスは「首だ!」と言うだけでよくても、人事部は相当大変だったんじゃないかと思います。特に落ち度がない場合には実際に会社が訴えられたんじゃないでしょうか?ちなみに「Apple sued by employee」とググると腐るほど出てきます。

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  22. とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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