「ウェルテル効果」(Werther effect)ってご存知ですか?ゲーテの名著『若きウェルテルの悩み』にちなんで「ウェルテル効果」と名付けられたこの現象、有り体に言えば「自殺は感染する」というお話なんです。
感染と言っても病気のように染るのではなく、新聞やテレビなどで自殺報道がなされると、少なからぬ人が影響を受け自殺を犯してしまうんです。
この効果、社会学者のDavid Phillips によって発見/証明されました。彼はニューヨークタイムズの一面に掲載された自殺記事と1947年から1967年までの全米の月刊自殺統計を比較する事で、報道による自殺率の増加への影響を証明し、これをウェルテル効果と名づけました。
このウェルテル効果、新聞に限らずテレビでも発生します。20代の自殺が報道されれば20代の自殺が増え、60代の自殺が報道されれば60代の自殺が増えてしまいます。飛び降り自殺が報道されると飛び降りが増え、拳銃を使った自殺が報道されれば拳銃自殺が増えてしまうことが判明しました。
また報道されなくても特定の学校や学区、地域などで自殺が流行ってしまうことも確認されており、いわば自殺はまさしく感染するんです。社会学ではまさしく「自殺感染」(suicide contagion)という用語を用いてこの現象を説明するそうです。
日本では岡田有希子さんの後追い自殺が有名です。岡田さんが飛び降り自殺した後、30名余りの若い人が自殺したそうです。そのほとんどが、岡田さんと同様の飛び降り自殺だったそうです。この後追い自殺は1年ほど続き、1986年はその前後の年に比べて,青少年の自殺が3割も増加したそうです。岡田さんは松田聖子の後釜として期待されていた上、人気絶頂期にの自殺でしたから、凄まじい「感染力」を発揮してしまったようです。
アメリカではマリリンモンローの自殺が、やはり大量の後追い自殺を生み出しました。
またミクロネシア諸島での青年の自殺の「流行」は目を覆うような惨状です。60年代まではごく低水準で推移していたミクロネシア諸島の自殺率は、70年代初期には倍増し、80年代初頭には10万人あたり40人となりました。この時点ですでにアメリカ合衆国の倍で、日本よりも高いのです。しかし15歳〜25歳までの若者に限って自殺率を調べてみると、なんと10万人あたり250人というあり得ないような高い自殺率が記録されていました。
またミクロネシアでの自殺に関してはいくつかの際立った特徴がありました。どの島でも圧倒的に男性の自殺者が多く、男女比は11対1にもなりました。また自殺者は圧倒的に若者が多く、自殺者の平均年齢はわずか22才で、自殺者の60%近くが15才から24才の若者でした。また父親に叱られる、親に結婚相手を認めてもらえない、などの若者に付きものの家族との摩擦を起因に簡単に自殺してしまうのでした。また自殺がクラスターとなって引き起こされており、仲間内の一人が自殺してしまうと、その仲間内に自殺が「感染」してしまうのです。
日本や欧米で見られるような慢性的な鬱病や、人生のむなしさ、仕事での失敗、学校の成績の悪さなど苦にしての自殺とは一線を画しています。
その感染の具体的なメカニズムや予防方法はまだ解明されていないようですが、自殺の感染力は疑うべくもないものであり、従って自殺報道は極めて慎重に行うべきなのです。
日本でも若者が仲間を募って練炭自殺をしてしまったり、硫化水素を用いた自殺が「流行って」しまったことがありますが、これらはセンセーショナルに報道されたことによる感染であるといって間違いないでしょう。
自殺報道にはこうした負の影響があるため、実はWHO(世界保健機関)では2000年に「自殺を予防する自殺事例報道のあり方」を定義しています。それによると自殺報道において:
- 写真や遺書を公表しないこと
- 自殺の詳しい内容や方法を報道しないこと
- 自殺に代わる手段を強調すること
- ヘルプラインや各地域の支援機関を紹介すること
などを勧告しています。しかし
日本ではまったく守られていません。
こうした感染、実は自殺だけでなく青少年の喫煙や暴力事件なども実は同じことです。バタフライナイフを用いた女性教師殺傷事件などもセンセーショナルに報道されることで、少なくない模倣犯を生み出しました。
報道に関わる皆さん、ワイドショーを作っている皆様方。数字が上がりさえすれば、何をしていいわけではないんですよ。自覚を持って仕事をしてください。
また国などでガイドラインを策定し、ある程度強制すべき時期に来ているのではないかとか思います。
皆さんはいかが思われますか?
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