Steve Jobsが亡くなってしまいました。
なんというか本当にショックです。
私はアップルで16年間働いていました。そのうち半分以上はカリフォルニアの本社で管理職でした。Steve Jobs と話をしたこともあります。そんな体験を振り返ってアップルにおけるSteve Jobs ってどんな感じの存在だったのか私なりに綴ってみたいと思います。
Steveがどんなふうな人なのか、という話をするには、まず彼がアップルに復帰する前の社内の様子を書いてみたいと思います。
その頃のアップル社内というのは、船頭のいない船、とでも言おうか、「学級崩壊」ならぬ「社内崩壊」とでも言うのか... 優秀な人は山ほどいましたが、全員が自分の向きたいほうを向いて好きな事をやっており会社を食い物にしているような感じでした。
また今のような秘密主義の会社ではありませんでした。それどころか社内の意思疎通が極度に悪く、社内で走っている別のプロジェクトを知ろうと思ったらマック専門誌を買って読んだ方が正しい情報がとれるくらいの酷さでした。会社内にペットを持ち込むことも容認されており、中には犬と遊んでんだか仕事してんだか分からない人もいましたし、社内を鳥が飛んでいたりもしました。Beer Bash と称してほぼ毎週社内でバーティがありました。これは本社でなくても日本の現地法人も同じで金曜日はあまり仕事にならず、早くからビールを飲んでいました。さらに5年間働くと1ヶ月のお休みが貰えたので、みんなこれに有給を付け足して2ヶ月ぐらいお休みを取り、その間に就職活動をして去ってしまう人も大勢いました。最後の頃には会社の身売り話が何度も出始め、ついにはリストラが始まり、いつ職を失うのかと毎日がドキドキの連続でした。
そんな折、まさかの Steve Jobs 復帰。
社内の様子は一変しました。最初は熱狂としかいいようのない興奮で迎えられたSteveでしたが、ごく短期間の間にその熱狂は「恐怖」とでもいうような感情によって置き換えられました。
それまでのアップルはよくも悪くも極めて民主的な会社でしたが、一方でどうにも方向性の見えない会社になってしまいました。
しかしSteve のやり方は180度異なっていました。一言で言うなら「独裁主義」です。歯向かうヤツは辺り構わず切られていきました。経営陣はほとんどNeXT から連れてきた連中に入れ替わり、それまでの経営陣はあっと言う間に叩きだされていきました。当時の私の上司だったディレクタもNeXTから来た人に入れ替わりました。その彼は「傍若無人」としか表現のしようがないほど威張り腐っており、それまでのマネージメント・チームは全否定されバサバサを切られていきました。ただその傍若無人な態度を認めざるを得ないほどよく働く人でした。NeXTでスティーブの薫陶を受けた連中というのはもう以前のアップルは基準値が違うという感じで、その日から労働時間が止めどもなく伸びてゆきました。そしてそれから10年以上たった今もアップルはそういうスピードで働いています。
私は丁度そのころに管理職に抜擢されましたが、来日した上長に「いいか、お前は選挙で選ばれたんじゃないんだ。お前はこのグループの独裁者になるんだぞ」と言われたのを良く憶えています。
この頃のSteve の運営方針は一言でいうなら「恐怖政治」でした。
社員食堂などで話しかけられシドロモドロになってしまうと「お前は自分がどんな仕事をしているのかも説明出来ないのか?同じ空気吸いたくないな。」などと言われ首になってしまうと聞きました。たまたまエレベータに乗り合わせて首になった人などの話などもあり、伝説に尾ひれがついて恐怖感が隅々まで行き渡り、みんなSteve と目も合わせないようにするような始末でした。
しかし独裁政治には良いところもたくさんあります。民主主義時代には整理出来なかった利益を生まない部署が整理され、コミュニケーションが密になり、秘密が外部に漏れなくなっていきました。こうした変化がわずか1年ぐらいで確立されましたから、本当に大した経営者です。
数年後には組織がすっかり綺麗に整理整頓された上、さらに自分が社内でどういう役割を果たしているのか極めて明確に定義されるようになりました。なので自分の仕事は会社のためになっているのだろうか?世の中のためになっているのだろうか?などと大企業に勤めているとありがちな悩みを持つようなことはなくなりました。また会社の知名度も人気もうなぎ上りだったので非常に誇らしく感じたものです。これほど働きがいがある会社は少ないでしょう。会社に行くのが楽しい毎日でした。
この頃になるとSteve に対する恐怖感というは「恐怖」というよりも「畏怖」といったような感情に置き換えられした。
そう。Steve って本当に畏れ多い存在だったんです。
その後に続いていく物語は、もう世間が良く知っているお話です。iPod, iTunes,iPhone, iPad と様々な製品が次々と発表され、世界中がSteveの世界の虜になっていきました。
今から、8年か9年ほど前の、まだSteve がガンを患う前のことです。こんなことがありました。
当時私はiPod Mini の開発に関わっていましたが、11月のある日、試作機をいじったSteve が完成度の低さに癇癪を起こし、会議の席上で試作機を壁に投げつけたことがありました。凍り付いて静まり返る会議室... まったくマンガに出てくるような独裁ぶりです。が、相手が Steve じゃ仕方ありません。その後も血眼の開発が続き、クリスマスイブさえ出勤して働きました。100日以上は休みなくぶっ通しで働いた記憶です。そして翌年の2月に出荷。Steveが出荷記念パーティを開き、開発メンバーが招かれました。その席でSteveは:
「アップルは最高の砂場だよ。毎日来るのが本当に楽しい。これからも面白いものを色々と作っていこう!」
と嬉しそうに喋っていました。周りに座っていた僕ら下々は「オレには砂場じゃなくて職場なんだけどな...」と内心思っていましたが、みんなおくびにも出さず同調して頷いていました。
他にも書いていくときりがないんですが、また機会を改めて書いてみたいと思います。
こうして振り返ってみると、自分の仕事人生の多くをアップルで過ごせたことは私が得た最大の財産ですし、これからもずっと私自身に影響を及ぼし続けるんだろうな、と思います。
Steve さん、安らかにお眠りください。お疲れさまでした。恐ろしくも楽しい時間、本当にありがとうございました。
21 件のコメント:
「エレベータに乗り合わせて首になった人などの話」は色々なところでみかけるのですが、その続きは「当時のAPPLEにはエレベータはなかった」というようにまとめられているのですけど、実際のところ、エレベータはあったのですか?
エレベータ、当時も今もありますよ。でもたった4階建てですから、あれで首になるのはけっこう難しいような気もします。
アップルをクビになった元社員達のインタビューとその後を追った本「私はこうしてアップルをクビになった」って本作ったら売れると思いませんか?
内部の方ということで日記面白かったです。ジョブズさん本当に惜しいですね。
その後も血眼の開発が続き、クリスマスイブさえ出勤して働きました。100日以上は休みなくぶっ通しで働いた記憶です
とありますが、普通ならブラック企業と言われてしまいますが仕事が楽しかったようですね。ジョブズさんが来てから自分の会社における立ち位置が明確になったこと以外にどのような動機が出来ましたか?仕事が楽しかった理由と言うか恐怖が楽しさに変わった理由を詳しく教えて下さい。
アップルは間違いなくブラック企業だと思いますw。この開発の時もマネージャの一人が開発の途中にバーンアウトして辞めてしまいましたし、自分も辞める寸前でした。
動機という意味ではやっぱり世の中を変えていくような手応え、といったようなものでしょうか。また自分が携わった製品が世界中で使われ、良くも悪くも常に話題の中心にあるというのは、やっぱり相当の励みになりました。
yamada さん
>アップルをクビになった元社員達のインタビューとその後を追った本「私はこうしてアップルをクビになった」って本作ったら売れると思いませんか?
どうでしょうね?アップルって辞めてもずっと後ろ髪を引かれる会社ですから、本当のことを喋ってくれる人はあまりいないと思います。だから多分本が成り立たないと思います。
Soft voice of techno-person, talked
horror story!!! Read it with an amazement. Thank you to revile it to us.
( By the way, I knew it with my hunch
so that, I never bought any of Apple products ---- sorry to say :-D)
首切りの話はともかく,発想がどこから出てどのような過程で型になっていったのか,といったお話をお聞きしたいですね。
私も以前、㈱キーエンスの開発部商品企画で働いていたことが有り、アップル社内のジョブズの話がリアルに分かります。(ただしキーエンスもユーザ寄りの開発で高収益型の会社でしたが商品分野が産業向けでしたのでAppleの様な誰にも分かる様な誇らしさは無かったです)キーエンスも滝崎さんと言う独裁トップが君臨しています。エレベータの話は多分嘘だと思いますが、仕事中にふと振り向くと滝崎さんが覗き込んで居てなんて「恐怖」つきまとってましたし、滝崎さん同席の会議中の緊張感は半端では無かったです。でも、彼が居なければこの会社は継続できないとも思ってました。
> アップルは間違いなくブラック企業だと思いますw。
残業が多いという意味でしょうか?
それとも、言葉の定義通り、残業させながら残業手当を払わないという意味でしょうか? 管理職の場合は残業手当がなくて当然ですから、下級労働者並みの低賃金ということになりますが、アップルはそれほど低賃金だったのでしょうか? 信じがたいのですが。
yoshizen さん
>首切りの話はともかく,発想がどこから出てどのような過程で型になっていったのか,といったお話をお聞きしたいですね。
私が知っている範囲でまた別の折りに書いてみたいと思います。
>残業が多いという意味でしょうか?
>それとも、言葉の定義通り、残業させながら残業手当を払わないという意味でしょうか?
続編を書いてみましたが、賃金や労働時間よりもプレッシャーの高い独特の企業文化がどうにもブラックだと思う所以です。
不正行為を投稿 のボタンを押しそうになりましたw
私がアンチ林檎な生理的理由がわかりました。
だらだらやってても、いいものはできない。何かを実現するためには、イメージをカタチにするためにリードしていく圧倒的な力が必要で、それについてこれない人、納得できない人に任せる仕事は無い。
イメージをカタチにする圧倒的な力というのは、消費者が求めている利便性や感動がベースになってて、そこを見つけられない人はついていけないんだと思う。
つまり、自分の仕事は誰のためにやってるのかを感じる力が大事。
スティーブのために働いている=消費者の満足と感動
と、大きく結び付けられたら楽しくなるはずだし、中途半端なモノは出せない。
強い言葉や、行動は、これを手にした消費者がこんなもので感動したり満足してくれるわけがない。と思う気持ちの行動なのだと思う。いいモノは、ほんとにそのモノを愛してるかどうかだと思う。そこへのこだわりを無くしたら、いいモノは生まれない。
こういうことを理解できない人はものづくりに向いてないと思うし、批判的な意見しか出てこないだろうと思う。
企業理念は何ですか?と考えてみることで、その会社で働く自分との整合性を確認できるんじゃないかな。
そういうことを感じました。
まつひろさん、貴重なお話をありがとうございました。
unclemacx さん、
㈱キーエンスがアップルのような独裁トップの会社だったとは知りませんでした。日本でもああいうやり方が成立するのかと思うと興味深いです。
Steveに正当なNO!を言える人はいたのでしょうか? あったとしてSteveがそれを受け入れることはあったのでしょうか?
>Steveに正当なNO!を言える人はいたのでしょうか? あったとしてSteveがそれを受け入れることはあったのでしょうか?
私は決してSteve に近い立場ではなかったので知りませんが、キチンと筋道を立てて正論を言えば真面目に聞いてくれると複数の方から聞いた事があります。
なかなか、経験できないお話ですよね。
読んでいて故本田宗一郎氏を思い出してしまいました。社風も目的意識が非常に高くて、残業もケタ違いのところとか昔のホンダと似てますね。ホンダエンジニアの数々の逸話を思い出してしまいました。
わたしの友人もカルフォルニアのアップルで管理職で働いています。開発研究をしていますが給料が安いと嘆いています。。!!
>わたしの友人もカルフォルニアのアップルで管理職で働いています。開発研究をしていますが給料が安いと嘆いています。。!!
わははww。そうそう。意表突いて給料が低いんですよ。アップルで働きたい人、幾らでもいるからそれでも人が集まるんです。
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