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Brighture English Academy 代表。趣味はウクレレとかハイキングとかDIYとか旅行などなど。在米20年。シリコンバレーに住みつつ、日本とアメリカとフィリピンで会社経営しています。最近は英語教育がライフワークになりつつある。

2013年11月27日水曜日

可能性を奪う権利

親友の娘さんが殺された。

まだ18歳だった。

彼女は友達と出かけ、そのまま行方不明となり、2日後に遺体となって発見された。犯人は一緒に出かけた男友達。ナイフで喉を一突きだった。

訃報を聞いた俺は、土曜日の早朝に飛行機に飛び乗った。

若い頃住んでいたアメリカ中西部の田舎町に着くと、粉雪が舞っていた。気温はマイナス8度。レンタカーに乗ってホテルへと向かう。途中、娘さんの遺体が発見された野原の脇を通る。通るクルマは少なく、自分のヘッドライト以外にはこれといった明かりもない。犬の散歩で通りかかった人が発見したという、亡くなったデニーの顔を思い浮かべた。

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次の日に葬儀に向かった。午前中は家族と親しい友人だけの内々だけのセレモニー。順番に遺体に対面した。

すすり泣きが溢れる。

「No Young lady like her deserve to die like this. (若い娘さんがこんなふうに死ぬ謂れはないわ)」

ある老婦人が呟いたそんな台詞が耳にこびりつき、頭の中を何度もエコーした。

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葬儀が終わると、俺は車に乗ってある施設へと向かった。そこは老人介護施設で、若い時に大変世話になったMさんが入院しているのだ。若い頃、アメリカで身寄りがなかった俺を、夏休みに、感謝祭に、クリスマスに家においてくれた。せめてもの恩返しと薪割りやら洗車やら買い出しやらを手伝ったっけ。厳しく叱られたこともあった。俺にとって、アメリカの父と呼んでもいい存在だった。

まだオープンして半年しか経っていない施設は設備も整っており、職員の対応も非常に気持ちよかった。部屋番号を訊いてそこに向かう。途中で食事部屋を覗き込むと、父はそこに座っていた。奥さんがそばに座っていて、俺に向かって小さく手を振った。

久しぶりに会うアメリカの父は、眼を閉じたまま時々何やら呟くだけだった。奥さんはご主人を揺さぶると、「パパ、ヒロシがきてくれたわよ。ほら、たまには眼を開けて」と何度も繰り返した。40分ほどそこにいたが、父が眼を開けることはなかった。時々眼を閉じたまま嬉しそうにニンマリと笑った。よくテレビの面白いシーンを見ながら、こんな顔をしていたっけ。

「アルツハイマーって本当にむごい病気だわ。ただの赤ん坊に還ってしまうのよ。」

寂しそうに奥さんが言った。この家族と一緒に、息子さんのフットボールの試合を観戦したり、キャンプに出掛けた事があったっけ。俺の結婚式にもきてくれた。

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葬儀場に戻ると、そこは人で溢れていた。平和な田舎町に振って湧いた悲劇。近所の人々や、死んだ娘さんの友人たちが肩を寄せあうようにやってきて、娘さんの死を弔った。

訃報を聞いて他の州から車を飛ばして駆けつけてきた古い友人たち。思い出話に花が咲き、涙と笑顔が交互に溢れた。

牧師の話があり、祈り、風船を持って外へと出た。氷点下の刺すような空気。全員が外に出ると、「Fly High Denny!!」のかけ声で、一斉に風船を離した。





アルツハイマー、ガン、心臓発作、脳卒中。

介護は大変だし、どんなに年老いていたって、肉親を失くすのは悲しい。それでも天寿を真っ当するのっては幸せだな……。何年も前に亡くなった実の父、さっき見たアメリカの父の顔、そしてデニーの死顔を思い浮かべながら、そんなことを考えた。だれもがみな黙ったまま、静かに風船を見上げていた。

レセプションでの食事。友人がポツリと言った。

「どんなに辛く悲しくても、眠くなるし腹も減る。仕事にも行かなくちゃならない。時間はかかるだろうけど、そういう『日常』がきっとデニーの両親を癒してくれるよ。」

確かにそうかも知れない。少しずつ痛みは薄れるだろう。でもきっと2人は深い哀しみと、やり場のないやるせなさと、誰にもこぼせない痛みを抱えて、ずっとずっと生きていくのだ。そしてデニーが戻ることは…… ない。

誰もが天寿を全うする権利がある。

上り坂や下り坂があってもいい。

でも、

他人の可能性を奪う権利は誰にもない。



2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

> デニーの顔

デニーってだれ?娘さんか。終盤まで読んで分かった

> 俺は乗って

車に乗ったのかな

> 方を寄せあう

s/方/肩

Hiroshi Matsui さんのコメント...

ご指摘ありがとうございます。修正しました。